「バークリー・メソッド」とは

Berklee Method

前書き

以下の内容は、2007年頃に執筆した持論であるが、
年月を経ても特に解釈の変化は見られなかったので、
ここに記し、気が変わるまで残しておくこととする。

本文

「バークリー・メソッド」とは、一体何だろうか。
可能な限り裏を取りながら、
自分の考えを簡単にまとめてみた。

「メソッド」と呼ばれるからには、
それなりに体系付けられた、
「ある一定の条件下における一種の公式的なもの」
と言っても、語弊はないと思う。

菊池成孔氏(憂鬱と官能を教えた学校、
東京大学のアルバート・アイラー等の著者)によれば、
「主に和声進行と旋律の関係についてを体系化した、
極めて記号的な音楽教育の方法」であり、
それは「ヨーゼフ・シリンガー」という
ロシア人作曲家によって創始された、となっている。

ちなみに、バークリー音楽院(現在は音楽大学)が
創立されたのは、第二次世界大戦が終わった1945年。
日本人で最初のバークリー留学者は穐吉敏子氏、
そのメソッドを日本に伝えたのは渡辺貞夫氏である、
ということだ。

菊池氏の定義は、
確かに的を得ているところがあるが、
「和声進行と旋律の関係」というのは抽象的なので、
ここで私見を述べてみる。

バークリーで完全に体系付けられているのは、

【アナライズ】
様々な和声進行をトーナルセンターに関連付け、
ローマ数字を用いてパターン化する方法。

【コード・スケール】
コードトーンを基軸とし、調性を想定吟味した後、
それ以外の音を埋めスケールを導き出す方法。
これは横の概念。

【アヴェイラブル・テンション】
任意のスケール音を積み上げて、
アボイドノートを含まないコードを作る方法。
これは縦の概念。

【様々なボイシングの体系化】
Drop 2
Drop 3
Drop 2&4
Spread
4th (Quartal)
Cluster
Upper Structure Triad
etc.

これらが、バークリー独自で築き上げてきた
「メソッド」の骨格なのだと、私は解釈している。

と言うのも、この辺りまでは勉強さえすれば、
誰でもシステマチックに理解することができ、
かつ他人への伝授が、極めて容易だからなのである。

昔は音楽も、
数学や論理学など並ぶ「学問」の1つであったが、
今や「芸術」と呼ばれ、
究極的意味での「真」や「善」は
個人の哲学に委ねられ、
多宗教的国際社会では、倫理的拘束もゆるく、
発表も比較的自由である中で、
多くの人々が共感を持てる型を示した
「バークリー・メソッド」は、
一つの「イデア」と呼べるのではないだろうか。

例えば、
「ルネサンス期における教会音楽のメソッド」は
確立しやすいかもしれないが、
それは所謂「禁則の賜物」であって、
厳格対位法の様な道徳的判断基準を
教会から植えつけられていた時代の遺産と
「バークリー・メソッド」とでは、
その選択自由権において異質のものである、
と私は感じる。

それに反して、旋律のアナライズ、
すなわち、テンションや非和声音を用いて、
線的な分析をすることに関しては、
決して体系化されているとは言えない。

古典和声と違い、
テンションがある種の和声音として認められる以上、
倚音の様に解決する必要はなくなるので、
その音の役割を判断するには、
音価の長短は言うまでもなく、
先取音や後打音等のシンコペーションを
慎重に考慮してしていくことになる。

曖昧な要素が多い分、分析は困難になるわけで、
授業でも深く突っ込むのは避けている。
つまりバークリーで力を入れているのは、
旋律作成法よりも音階や和音の細分化である。

「バークリー・メソッド」とは、
アドリブソロやコンピングの様に
「瞬間的に消えて無くなるもの」
において、その効力を最大限に発揮する。
ずばり「再現芸術性の欠如」とも言えるだろうか。

もちろん、動機の展開等が上手ければ、
ある程度は何らかの統一性を
感じることはできるのだが、
私が聴きに行った膨大な量のリサイタルでは、
たとえそれがジャズ作曲科の発表であったとしても、
「バークリー・メソッドによる旋律作成」
は起きていなかった、と断言できるのである。

また「作曲」において、
巷に溢れる安易なポップスの如く、
「鼻歌伴奏型ホモフォニー」スタイルに
収まってしまう人が圧倒的に多いのも、
世界中に広まっていった「バークリー・メソッド」に
一因があることは、決して否定できない。
「リードシート」の普及がそれを象徴している。

さらに「バークリー・メソッド」の
長所短所を挙げてみる。

長所はもちろん、アドリブやコンピングにおいて、
限りなく「実践的」である、ということ。
方法論自体は難しくなく、
なおかつ覚えたらすぐ使えるので、
机上の空論とは対極に位置するものであろう。

短所を挙げるとするなら、
様々な音楽語法が「単純化され過ぎている」
ことであろうか。
それらは、全て当たり前の様に進められ、
いつしか「神の法則」のごとく侵されてしまう。

もちろん「メソッド」というのは、
ある前提を受け入れることによって、
初めて成り立つわけであるから、
技法的に割り切って習得すれば、
便利この上ないことは確かである。

しかし「バークリー・メソッド」の守備範囲は
限りなく広いわけではなく、
ピアノソナタや弦楽四重奏等、
クラシック系はもちろんのこと、
バークリーが誇るはずの商業音楽においても、
決して万能とは言えない。

映画、アニメ、ゲーム等、
各シーンに適したムードを出すべき時に、
いつもコードネームやリズムが明確なのは、
果たしていかがなものか。

和声法や対位法の実習を
すっとばしているのにもかかわらず、
それなりのサウンドを簡易的に得ることができる
「バークリー・メソッド」も、
ここでいよいよ、その脆弱性を露にすることとなる。
一番よろしくないのは、
多声部音楽に関する教程が、頗る甘いところである。

さらに皮肉なことに、プライベートレッスン等では、
「バークリー・メソッド」と無縁の独自コンセプトや、
極秘ネタ等を持っている指導者が人気が高い、
ということもしばしばあり、
ある種の生徒は「型破り」に躍起になっている、
と言えなくもない。

「メソッド」というものは総じて、
その技法に酔いしれるなら、
視野を狭めてしまう諸刃の剣になる
可能性も孕んでいるものである。

であるから、ともすれば快楽主義に走りがちな
「バークリー・メソッド」の限界をも悟り、
「数多の技法におけるほんの小さな一部に過ぎない」
という認識に至ることが
この天才的にまとめ上げられた音楽記号化方法論を
より一層有効な武器として使いこなすための
第一歩となるのである。

「木を見て森を見ず」ではなく、
「森から木を見る」様に、常々心がけていくべし。

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